提案文 :
藤井めぐみと申します。英語に関する仕事を長年、細々と続けてきました。英語に初めて触れた時の感動は忘れません。耳障りの良いリズム、発音の快感。私は一瞬で英語と恋に落ちました。言葉を生業にする一方で、夢中になったものがアートでした。人の技が生み出す有形、無形のアートは、時代も言葉も超えて、私の心を揺すぶってきました。いつか、アートに携わる仕事を、もしくはアート的に仕事を紡いでいきたい、と常々思っていました。
家で過ごすことが多くなった今年、長年の夢であった、絵に関する勉強をオンラインで始めました。地方在住のハンデに関わらず、受けられるようになった、著名な先生方の様々な講義を、自宅で大満喫しています。色彩や構図の事など、学びを深めるうちに、自分ならではの表現方法を確立し、それを誰かに伝えたい、と強く思うようになりました。そして、このコンペに出会いました。
今回のコンペに応募するにあたり、題材はすぐに決まりました。『ファミリーキャンプ』です。形式にこだわらない夫と、熱しやすく冷めやすい私が築いた家庭は、家訓の一つもない、無法地帯なのですが、唯一の恒例行事が夏のキャンプです。我が家のキャンプ史は、新婚カップル5組のグループでのデイキャンプに始まりました。子供ができて、子連れキャンプ、遊んでばかりだった子供たちが、翌年は料理を手伝い、更にその翌年は、テント張りに率先して参加するようになりました。ここ数年は、音楽フェスに参加する名目での、夫と私、中高生の長女と次女、家族4人でのキャンプとなりました。残念ながら、今年は音楽フェスが中止、夏休みの予定も合わず、キャンプには行きませんでした。なので、夏の終わりの思い出に、理想のファミリーキャンプの様子をドット絵で残そう、と決めたのです。
スケジュール的に私が確保できる時間は、長くて10日ほどでした。10日で納得できる作品を完成させることは不可能だ、と思いました。夫は絵に関心がなく、次女は細かい作業が苦手。頼みの綱は、この春、県外の高専の建築科に進んだ長女でした。今年度の新入生は、コロナの影響で、4月から6月は自宅からオンライン授業、7月からの入寮、対面授業の開始でした。そのため、夏休みがずれ込み、ちょうど9月初旬にテストを終え、帰郷する予定でした。「しめしめ、夏休みの長女にドット打ちを手伝わせよう!」と首を長くして待っていました。
しかし、私の思惑は外れました。彼女は、私の納期よりも厳しい、大量のホームワークを抱えて帰ってきました。彼女が描く図面は、私が打つドットよりも、はるかに繊細で、それは根気のいる作業に見えました。彼女が帰省してからの10日ほど、昼夜を問わず、二人それぞれ、黙々と作業を続ける毎日が続きました。
そして、今日、私の作品は完成しました。彼女のホームワークの提出は明日です。来週は、また新たな課題があるそうです。私も、来週は次の締め切りに向かって仕事をする予定です。
出来上がった私の作品をみて、いつかはアーティストを夢見る私に、彼女から最初のオーダーが入りました。「お母さん、次はドット絵でSNS用のアイコン作ってや。」私も心の中で呟きました。「次、家を建てる時は、設計頼むね。」
2020-09-18 18:41:54