私は、美佐子を助手席に乗せて、まだ雪の残る4月の日光いろは坂を上っていった。非力なエンジンだったから、2速ベタ踏みで上るのがやっとで、坂を10個も過ぎると周囲は雪で一層白くなり、灰白色の山腹には、刷毛で引いたような九十九折のガードレールが見えていた。
彼女とのデートは今日で2回目だった。前回「つきあって」と言ったのだが、彼女は、私の心を見透かしたかのように突き放すかと思えば、表情豊かな瞳と切ない表情で甘えてくる小悪魔で、交際の返事も保留だった。そんな美佐子は、まだ20才だった。
「あら、猿がいるわ」
「うん」
私は運転に集中していたので、前を向いたまま返事をした。
明智平のトンネルを過ぎていろは坂が終わり、金谷ホテルの前を左折すると左手に中禅寺湖が見えてくる。湖畔から建物の屋根までは、もう白一色だった。戦場ヶ原は一面凍りつき、降った雪が幾度か溶けながら一枚の氷の板のようになっているのは明らかだった。
車から下りると、氷のような風が体を吹き抜け、温まるために売店で買ったおでんは、2,3歩いただけでたちまち冷たくなった。
「ちょっと、行ってみる?」
「うん」
私は彼女の手を取って、戦場ヶ原に向かって歩き出した。あるはずの歩道は見えず、先人の足跡をたどっていった。そして道路から見えないところまで来て、私は転んだ。それは足を滑らせたというより、咄嗟の思いつきでわざと転んだのかもしれなかった。手をつないでいた彼女も、歓声と共に転んだ。
瞼を閉じて感じられるのは、背中の冷たさと、乳白色の空の明るさだった。雪の残る広大な枯野で、今ここにいるのは2人だけである。無音の空間でずっとこのままいられたらいい・・・、広大な空間が2人だけのもののような気がして、私はそのまま動かずにいた。
白一色の大地、空、空気の中で、色彩と言えるものは、彼女の服と唇だけだったろう。
「あら、雪だわ」
その声に目を開けると、彼女はマフラーをほどきながら、上半身を起こして腰をひねり、空を見上げていた。
私が起きようとすると
「だめよ」
細い腕で押さえられた。
私は頭を下げ、再び目を閉じた。そのままじっとしていると、小さな雪が舞い降りてきた。それは、額や顎に落ち、微かな質量を感じさせてすぐに溶けた。
「静かね」
彼女は手をつないだまま言った。
「うん」
突然視界が暗くなったかと思うと、ふわっという感触とともに、温かくなった。
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2017年1月28日
思わず引き込まれる文章、SEO対策の文章を作成します。最大1テーマ10万文字の作成経験があります。
8年ほど前からフリーライターの仕事を始めており、長文作成を得意としています。書いた文字数は累計で、原稿用紙換算10,000枚を超えました。
そこで心がけているのは、人を惹きつける文章を書くことです。
ジャンルとしては、車&バイク、音楽、男の料理、写真、浮気不倫調査ノウハウ、恋愛コラム、教養やマナー等などです。
エッセイ、短編小説の入賞経験も多数あります。
分からないジャンルでも調べて書き、それを分かりやすく相手に伝えることには自信があります。
実生活での仕事は、主に人事労務・安全衛生、資材管理の業務に携わってきました。
・新入社員の求人・面接・試験から採用時教育
・健康保険・年金・雇用保険等社会保険の手続
・人事考課結果の調整
・定期昇給の配分・ベースアップ配分
・就業規則の作成とメンテナンス
・製造業の衛生管理者業務
・社内の安全衛生教育、安全衛生事務局
・経理
・労働組合との折衝
・資材等の購買窓口
などです。
また、得意な作成ジャンルと重複する、多趣味を生かしたブログを10年続けています。現在のPVは210万を超えています。
内容は次のとおりです。
・車・バイク
・オーディオ
・写真・カメラ
・音楽鑑賞(クラシックからJPOPまで)
・料理(男子厨房に進んで立つ、がモットー)
・ペット(主にネコ)
・恋愛
一度お引き受けしたお仕事は、必ずやり遂げます。よろしくお願い致します。